輸血後GVHDのリスク

輸血後GVHDは、輸血製剤中の白血球がhostの体内で排除されずに増殖し、hostの組織・臓器を攻撃してしまうことで生じます。ですので輸血後GVHDのリスクとしてはhostの免疫不全が挙げられます。

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 その他のリスクとして、血縁者間での輸血が挙げられます。一見、免疫反応を弱められそうな血縁者間輸血でむしろGVHDをきたしてしまうのには「HLA一方向適合」という現象が関与しています。このHLA一方向適合についてはまた後ほど…

内分泌系のクリーゼ

 内分泌系のクリーゼでは甲状腺クリーゼと副腎クリーゼが重要です。

 

甲状腺クリーゼ

 もともと甲状腺中毒症を起こす基礎疾患があった人に、感染や外傷などの誘因が加わって、極度の甲状腺中毒症状をきたした病態です。過剰な甲状腺ホルモンによって代謝が亢進し、多臓器不全をきたします。

 

・副腎クリーゼ

 急性副腎不全によって、副腎皮質ホルモンが不足することで生じます。低血糖による意識障害、ショックなど致命的な症状をきたします。

 

 ここで注意していただきたいのが、甲状腺クリーゼは甲状腺ホルモンの過剰、副腎クリーゼは副腎皮質ホルモンの不足によって生じるということです。

 これらの病態に関しては、甲状腺ホルモンは代謝を亢進するのでストレスを上げるホルモン、副腎皮質ホルモンはストレスに耐えるためのホルモンだと考えると理解しやすいでしょう。

 

甲状腺クリーゼでは過剰な甲状腺ホルモンによってストレスが耐えられる上限を超えてしまいます。

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一方、副腎クリーゼでは副腎皮質ホルモンの低下によりストレスに耐えられる上限が低下してしまいます。

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 ここで、汎下垂体機能低下症について考えてみましょう。汎下垂体機能低下症では甲状腺ホルモンと副腎皮質ホルモンの両方が低下してしまうのでこれらを治療として投与する必要があるわけですが、このときの順番が非常に大切です。

  まず副腎皮質ホルモンを投与してストレスへの耐性を高めた後で甲状腺ホルモンを投与します。この順番を逆にしてしまうと身体がストレスに耐えられず副腎クリーゼをきたしてしまいます

【医学用語解説】クリーゼ

 クリーゼとは疾患の経過中に症状が急激に増悪することを意味します。クリーゼ(Krise)はドイツ語で、これは英語で言うとクライシス(crisis)、すなわち生命の危機に瀕した状態ということです。

 クリーゼという用語が用いられる病態には、甲状腺クリーゼ、副腎クリーゼ、筋無力症性クリーゼ、高血圧クリーゼ、高カルシウム血症クリーゼなどがあります。

脊髄空洞症による宙づり型温痛覚障害

 脊髄障害では基本的に下図のように障害部位以下すべてのレベル※1に感覚障害が生じます。(図は横断性障害の場合)

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しかし、脊髄空洞症では上半身のみに温痛覚障害をきたす宙づり型温痛覚障害という特殊な感覚障害を呈します。つまり、脊髄が障害されたレベルの感覚障害のみが出現し、下肢には感覚障害をきたさないのです。

f:id:tomiri17:20170601011205p:plainその理由は脊髄における伝導路の走行から理解できます。

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空洞は脊髄の中心部に生じますが、この部分にには上行性の神経線維が走行しません。したがって障害部位の以下のレベルには感覚障害が生じません。しかし温痛覚の伝導路は脊髄に入ったレベルで交叉し中心管の前を通るので、空洞の影響をもろにうけてしまいます。こういうわけで脊髄空洞症では空洞が形成された高位の温痛覚障害のみが起こるのです。

 

※1.実際には障害部位の数レベル下から感覚障害が起こることが多いです。

胃ポリープの概要

  胃ポリープとは胃粘膜上皮の局在性増殖により生じた隆起性病変の総称です※1。胃ポリープの多くは胃腺の過形成により生じます。以前は腺窩上皮型過形成性ポリープが多く認められましたが、最近では胃底腺の嚢胞状拡張を特徴とする胃底腺型過形成性ポリープ(胃底腺ポリープ)が増えつつあります。単に「過形成性ポリープ」というと腺窩上皮型過形成ポリープを指すことが多いようです。

 胃内にポリープが多発するようなときは、家族性大腸腺腫症、Peutz-Jeghers症候群、Cronkhite-Canada症候群などの消化管ポリポーシスを疑う必要があります。

 

※1.文献により胃ポリープの定義は様々でした。例えば今回お示しした定義の他にも、粘膜下腫瘍等の非上皮性病変も含むもの、胃腺腫等の腫瘍性病変を除くものなどがありました。